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びっくりした話

[2021.12.18]

学生時代のことです。
小料理店でアルバイトをしていたとき、色々なお客様がいらして下さっていたのですが、その中でも一際目立つ男性のお客様がよく来店していました。
身長がとびきり高く、スラッとしていて、いつもお洒落でフチのない眼鏡をかけているため、ただ格好良いというだけでなく、インテリジェンスに溢れています。歳の頃は40歳前後、仕事の接待や職場の仲間といつも4〜5人でよく利用して下さっていました。
お料理を運んでいくとよく話しかけられ、外見とは違う気さくな内面も垣間見えることからも、引き連れていた部下の方々や後輩さんたちからとても慕われているご様子。そのうち何度もお顔を合わせるようになり、私も下の名前を呼び捨てされるまでとなり、とても可愛がってもらっていました。
ある日、いつものようにお料理を運んでいくと、珍しくその方が「今度カミさん連れて来るから、会ってよ。」と。いつも仕事関係の人ばかりでしたが、大事な人をお連れになるというのはお店を気に入ってくれたということです。お客様も増えるし、こんな良いことはありません。
「わー嬉しいです、ぜひ近々いらして下さいね」と喜んでお返事していました。
しばらくして別の個室のお客様が帰られたため、お部屋の片付けをするために食器をコチョコチョと下げていたときです。
必ずいつも同伴している側近中の側近である後輩の男性が、何やらコソコソとお部屋に入って来たのです。
「お飲み物のご注文ですか?」のん気にポケットからメモを取り出すと、「違うんです」とその男性が話し始めたのは、信じられないお話でした。
「実はあの上司、アナタを養女にしようと思っているんです」
えぇーーー? 養女?!
聞けばその方、長年お子様に恵まれず、色々と考えたそうですが、気心知れた子が良いから、と、奥様と私を会わせ、了承が得られたら正式に私に話をするつもりだ、と前々から打ち明けられていた、というのです。
しかもその方38歳、ワタクシ既に20歳。
いくらなんでも、娘になるほど子供じゃないと思うのですが・・・
「いやいや、無理です無理です」
いくらお客様といえども、さすがに聞き入れられない案件です。
「一人娘で家がものすごく厳しい、とか何とか言っておいて下さい」
全部ウソですが、カドが立たないようこちらも必死です。
「わかりました。ではそんな話を耳に挟んだ、ということにしておきますね」
側近の男性に全力で同意しながらも、手が震えて食器がうまく片付けられません。

その後、陽気に帰られたその御一行様は、これまでと変わることなくいらして下さっていましたが、奥様をお連れになることは一度もなく、ホッと胸を撫で下ろしたのでした。

しかし不思議です。
もし家を継いでほしいのなら、どう考えても「男性」しかも「もっと小さな男の子」が良いと思うんですけどねぇ・・・
私が幼稚だったのでしょうか? トホホ。

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