昼下がりの疑惑
あれは30年近く前のことです。
日曜の、時刻は13時を迎える頃でした。インターホンが鳴り応対してみると、「警察署の者ですが、少しお話よろしいでしょうか」と1人の刑事さんが来られたのです。
いそいそと受話器を置き、夫に「警察の方がいらしてるんだけど」と言うと「えぇっっ?!」とこちらがびっくりするほどの驚き方。「何か思い当たることがあるの?」「な、ないよ、無いよ!」としばし硬直。
とりあえず玄関を開け、詳しくお話を伺ってみると…
少し前に大岡川で1〜2才の性別不明の幼児の遺体が発見され、身元が判明しないため、該当する年齢の子供を1人ずつ目視で確認させてもらっている、とのこと。
「お子さん今、いらっしゃいますか?」との問いに、私たち夫婦は顔を見合わせ、うつむきます。「何か不都合でも?」「い、いや、そうじゃないんですけど…」躊躇する我々に、優しそうな刑事さんも怪訝そうな表情を浮かべます。
「あの、すごいことになってますけど、よろしければ中に入っていただけますか?」とリビングにお通しすると…
まだ1才だった長男が昼食を食べている真っ最中。
1人で食事をする練習をしていた時期でもあり、スプーンどころか手づかみでグシャグシャ。オマケにその日はオムライス。こちらが被害者どころか、まるで人でも食べているかのように顔中をケチャップで真っ赤にして、大きな大きなビニールシートの上で、チキンライスを握ってはあっちこっちに投げていたのです。
違う意味でのあまりの惨劇に、刑事さんも思わず「ブッ」と吹き出し、「あ、良かったです、お取り込み中にすみませんでした」と笑いながら帰られたのですが、あぁ危なかった、一瞬私たち、容疑者になりかけたよね?とこの状況をお見せするのをためらったことを2人で後悔しました。
その後犯人は逮捕され、亡くなった子の身元も判明したとのことでしたが、同じ歳の子をもつ親としては切ないかぎりです。
しかし刑事さんがいらしたとき「なんであんなに驚いてたの?」と夫に尋ねてみたところ、「だって刑事さんなんて初めてだったから…」とのこと。
あれ、おかしいなぁ、私の身内に警察官しかも刑事もいるし、何度も会ってるはずなのに…忘れてるだけ?
新しい疑惑の誕生です。(冗談です)